花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
「エミリー。ごめん」
見られていることなど一切気にする様子もなく、彼は片膝を地面につけて謝罪を続ける。
背後から「あらあら愛の告白かしら」と話す声が聞こえてきた。エミリーは違うのよと顔を赤らめながら肩越しに後ろを見て、ぎくりと顔を強張らせた。
「告白するならフードくらい取らなくちゃダメよ」と茶々を入れる四十代くらいの女性の隣で、野菜の入った網かごを持った同年代の女性も彼を見つめていたが突然ハッとし「やめなさい」と焦り気味に止め始める。
そして、エミリーの目が捉えていたのは、その買い物帰りらしき女性ふたりの向こう側に立っている、聖女クラスの三人の姿だった。
エトリックスクールを出る直前に嫌味を言ってきたあのふたりと、腰まで綺麗に伸びた赤茶色の髪が目を引く背の高い女子生徒、エスメラルダ・ヘイズがいた。
エスメラルダと目が合った瞬間、嫌悪感たっぷりに眉根を寄せられ、エミリーの心に苦さが広がっていく。
エスメラルダは大聖女ロレッタを祖母に持ち、本人も次期大聖女候補と言われている。
そのため発言力も有り、エミリーは彼女に良く思われていないからこそ、傍にいるふたりだけでなく聖女クラスの生徒たちから刺々しい態度を取られていると言っても過言ではない。