花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
私には聖女じゃなくて悪女に見えるわよと、エミリーは心の中で盛大にため息をつく。
「わかったわ、今すぐすべて許す。だからお願い手を離してっ!」
エミリーが折れると、「良かった」と安堵の声と共にやっと彼の手が離れていった。
「話をしたいが、まだ時間はあるか?」
「う、うん。あなたのお陰で早く完売したから戻りの予定時間までもう少しあるけど、でも……」
答えつつ、エスメラルダが気になりチラリと確認する。
すると、こちらを怪訝そうに見つめながら両脇のふたりとひそひそ話している姿が視界に入ってきて、エミリーは不安にかられる。
あの様子では、あっという間にエトリックスクール内で噂を広められてしまうだろう。
もし、男と会っていたなんてあることないこと教師に言われてしまったら、……外出許可をもらえなくなるかもしれない!
定期的にマルシェで魔法薬を売りたいエミリーは、それは困ると顔を青ざめさせた。
一方で、フィデルと名を騙っていた彼も、自分たちが注目を集めていることにやっと気がつき、フードの縁を掴み俯きがちになっていく。
顔を隠した彼に眼鏡の男性がそっと近づき、「騎士団員が」と囁きかけた。