花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!

エトリックスクールの敷地外へと出てすぐに、エミリーの元へひとりの女性が駆け寄ってきた。


「エミリーお嬢様! 約束の時間を過ぎても出てこられないから、何かあったのではと心配しておりました」

「ごめんシアメル、待たせてしまって。朝食後に講師から呼び出されて、今の今まで解放してもらえなかったの。ほんと参ったわ」


茶色い髪をわずかなほつれもなく後ろでひとつに束ね、眼鏡をかけ、黒いワンピースに白エプロン姿のシアメルは、メイルランド家に仕えている侍女である。

言葉を交わしながら、ふたりは早速マルシェに向かって歩き出す。

グラント王国の南東部に広がるソリンドル地方のプランダという田舎町で、エミリーはバリー・メイルランドの長女として生まれ育った。

メイルランド家は曾祖父の代から辺境伯としてプランダ周辺の地を治めていて、「メイルランド家の女性たるもの毅然と華々しくあれ」が口癖の祖母により、エミリーも厳しく躾けられてきた。

しかし六年前に祖母が亡くなり、それから一ヶ月も経たず祖父も追いかけるように息を引き取った。エミリーが十歳の時のことである。

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