花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
しかしそれが癇に障ったらしく、エスメラルダは声を荒げた。
「彼とどういう関係なのよ! 隠さずに話しなさい!」
あまりの迫力にリタは半歩下がり、エミリーは呆然とする。怖かったからではなく、もしかしてと気づいた事実に心がちくりと痛んだからだ。
「エスメラルダは彼のことを知っているのね。いったい彼は何者なの?」
逆にエミリーが質問すると、エスメラルダは目を見開く。取り巻きたちも揃って驚き顔となるが、すぐに小馬鹿にするようにふふっと笑い出す。
「やだ、知らないの? あの御方は……」
意気揚々と話し出した取り巻きの片割れを手で制した後、エスメラルダはニコリとエミリーに笑いかけた。
「知り合いのように見えたけど、そうじゃなかったみたいね。ごめんなさい、彼が話していないことを私から話せませんわ」
悪天候だった空が一瞬で快晴になったかのように態度を翻し、「失礼します」と上品にお辞儀をしてからエスメラルダはひとり先に歩き出す。
「エスメラルダさん、待ってください」と取り巻きのふたりが追いかけ、その場に取り残されたエミリーとリタは思わず顔を見合わせる。
「部屋に戻ってから、町であった出来事を話すわ」
エミリーは苦笑いしつつ、と唖然としているリタの背中を「行きましょう」と軽く押す。ふたり並んでゆっくりと、見慣れつつある寮への道を歩き出した。