花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
祖父の後を継いだ父は祖母同様厳格だった祖父とは違いおおらかな性格で、母のエリサは穏やかで物静か。
そのため、緊張感で張り詰めていた屋敷の空気も、楽しげな笑い声が響くほどに一変する。
エミリーにも貴族以外の同年代の友人ができ、子どもらしく自由にのびのびと暮らせるようになった。
そして大人になった今、半年前に薬師になる夢を叶えるべく親元を離れ、お付きも付けずに寮生活をしている。
約三ヶ月ぶりに会った侍女のシアメルに実家の様子を聞いているうちにマルシェに到着し、視界に飛び込んで来た見知った姿に「まぁ」と驚きの声を上げた。
「オレリア、どうしてここに?」
エミリーの声に反応して、マルシェの入り口近くに立っていた紫色のドレスを着た六十代くらいの年配の女性が振り返り、ニヤリと笑いかける。
「エミリーが魔法薬を売るって小耳に挟んだからね、お前さんの顔を見ようと思ってモースリーまで出て来たんだよ。それに、ちょうど華樹祭の時期だというのも思い出してね。人が集まるだろうし、ついでに私も便乗させてもらうかと」
そう言って、軽く振ったオレリアの右手には大きな宝石のついた指輪が二つはめられている。