花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
こちら向かって、四十代くらいの侍従が騎士団員三人を引き連れて近づいてくる。騎士団員のうちのひとりは本物のフィデルだ。
彼らは真っ直ぐビゼンテ先生の元へやって来て、「少しよろしいでしょうか」と侍従が切り出し、話を聞かれたくないのか少しばかり移動するように促す。
どうしたのかと気になり、つい先生たちの姿を目で追う。
しかし、大聖女ロレッタやエスメラルダが先程すれ違った場所からこちらを見ているのに気がついてしまい、エミリーはさりげなく視界を逸らし大聖樹へと体を向けた。
改めて大聖樹を見上げ、樹から漂ってくる甘い匂いを感じ取ったその時、風で枝が揺れ、葉がザワザワと音を奏でた。
そのせいで匂いがより強くなる中、エミリーは違和感に襲われる。
この場に風は吹いていない。取り囲む木々や草花は微動だにしていないのに揺れているのは大聖樹だけ。
異変に気づいた生徒たちの間にも動揺が広がっていく。
これは揺れているのではなく、大聖樹そのものが震えているのかもしれない。
心なしか怖くなり、エミリーが僅かに後ずさった瞬間、一段と大聖樹がその身を大きく揺らした。