花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
ふわりと吹き抜けた風がレオンの黒髪を揺らし、鼻腔をくすぐった甘い匂いにつられて、青みどり色の澄んだ瞳を大聖樹へと向ける。
「もしエミリーに牙を剥くようなことがあれば、俺は絶対にロレッタを許さない」
ざわざわと木々が揺れる中で、強く思いを込めてそう宣言した。
エトリックスクールに戻った後も、聖女選出の話で持ちきりだった。
「もしかしたらエミリーが大聖樹に選ばれたんじゃないのか」と誰かが発したひと言から、「大聖女の孫ではなく、エミリーが大聖女になるかも」とあちこちで囁かれ出す。
しかし当の本人は「そんなことある訳ないのに」と呆れた様子だ。
とはいえ、エスメラルダと顔を合わせるのも気が進まなく、夕食や入浴の時間をあえてずらすことに。
エミリーとリタは遅い時間のため貸切状態の浴槽で手足を伸ばしてのんびりお湯に浸かり、あれこれお喋りしながら一日の疲れを癒す。
風呂から上がれば消灯時間が迫ってきていて、手早くナイトドレスに身を包み脱衣所を出た。
煌々と明るい魔導具のランタンが壁に等間隔で掛けられている廊下を、ふたりは足早に進んでいく。