花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
エミリーはそそくさと手紙と髪留めを巾着にしまい両手で抱え持つと、リタをその場に置き去りにする勢いで廊下を歩き出す。
本当に、あの美麗な彼が自分を特別に想ってくれているのだろうか。
まさかの事態にエミリーの心は落ちつかず、巾着を掴む手も動揺で震え出す。
彼の恋人になるなんて想像もつかないというのに、もし告白されたら、恋人になって欲しいと手を差し出されたら、……間違いなくその手を取るだろうことだけは確信が持てた。
高鳴る胸の鼓動を感じ、エミリーは唇を引き結ぶ。
素敵な友達だと思っていたけれど、もしかしたら、彼への感情はそれだけでないかもしれない。
自分でも気付かぬうちに、特別な気持ちを抱いていた。だからこんなにも動揺し、胸の高鳴りが止まらない。
私、彼が好きなのかもしれない。
自分の心の内側から導き出した気持ちに、エミリーは顔を真っ赤にさせる。
次に会う時いつも通りでいられるだろうかと気恥ずかしさでいっぱいになりながら自室の前に到着する。
思い切りドアを押し開けたその瞬間、……エミリーは目にした光景に凍りついた。
「……えっ」
ほのかなランタンの明かりしかない部屋の中に、真っ黒な人影があった。