花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
外套を纏う体躯は大きく、すぐに男性だと判断がつく。
口元は布で覆われて見えないが、真っ直ぐにエミリーを捕らえた目がぎらりと禍々しい輝きを放った。
「……誰?」
勇気を振り絞ってそう問いかけると、男は前にしていたクローゼットの扉を閉じ、腰元から短剣を引き抜く。
鈍い輝きを放った刃先に、恐怖でエミリーの足は竦む。
完全に動けなくなったエミリーの後ろから、リタが「どうしたのよ」と声をかける。
男が素早く短剣を鞘へと戻すのと、リタが室内を覗き込んだのはほぼ同時だった。
一拍置いてリタが「ぎゃーーっ!」と渾身の叫び声を上げると、その声につられて他の部屋の扉がいくつか開き、「リタ! こんな時間になに? うるさいじゃない!」と薬師クラスの一年女子が何人か廊下に出てきた。
歩み寄ってくる気配を察知した男は身を翻す。
窓を一気に開け放ち、魔力で風を操りながら慣れた身のこなしで外へ飛び出していった。
「泥棒か変質者かわかんないけど、今、部屋の中に誰かいたのよ! 窓から逃げていったわ!」
リタは室内を指差して、傍に立ったクラスメイトに訴えかけた。