花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
心細くなるたび、美麗な彼がそばにいてくれたら良いのにとエミリーは思ってしまう。
彼からもらった髪飾りにそっと触れた時、廊下の曲がり角でエスメラルダたちと鉢合わせ、互いの足が止まった。
エスメラルダの両脇を固めている聖女クラスの生徒ふたりが、すぐさま睨みつけてくる。
それにリタは不機嫌な顔で応えつつ、「エミリー、行くわよ」とエミリーに目配せしてこの場からの突破を試みる。
「待ちなさい、エミリー・メイルランド」
しかし、エスメラルダはエミリーの腕をきつく掴み、怒りを滲ませた声で呼び止める。
「あなた、私をからかったわね」
「からかうって何の話?」
「とぼけないでよ、知らないふりをしていたくせに」
エスメラルダの言葉から考えを巡らせても、やはり何のことを言っているのかわからない。
つい小首を傾げると強く腕を引っ張られ、エミリーとエスメラルダの距離が近くなる。
「本当は彼が誰か知っていたんでしょ?」
そこで、美麗なあの彼のことを言っているのだと理解する。
しかし、エスメラルダをからかったつもりは全くなく、むしろエミリーはいまだに彼に関してよく知らないままだ。