花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!


「忘れていたってことにして逃げちゃおうかしら」


思わず本音をこぼした瞬間、中から扉が開けられた。

驚くエミリーとは違い、扉を開けたフィデル副団長は冷静な面持ちのまま。

その上、まるでエミリーがそこにいるのをわかっていたような口調で「皆様お待ちです。早く中へどうぞ」と入室を促してくる。

もう逃げられないとエミリーは諦めて、「失礼します」と応接室に足を踏み入れた。

リタの予想が的中し、室内には本当にカルバード学長がいた。

年は六十代後半。豊かな顎髭を持ち、気難しそうな面持ちの男性で、まとっている厳格な雰囲気は厳しかった祖父を思い起こさせるため、エミリーは少しばかり苦手意識を持っている。

他にはビゼンテ先生と先日城で会ったテド院長、そして裏庭で見かけた侍従。

カルバード学長とテド院長はソファーに座っている。

騎士団員はフィデル副団長の他にもうひとり。

壁際に姿勢正しく並んでいる彼らを横目で見ながら、エミリーはビゼンテ先生のそばに歩み寄る。


「なぜこのような場に私が呼ばれたのですか?」


こそっと話しかけると、テド院長がゆっくりと立ち上がり、騎士団の正式な挨拶同様胸に拳を当て、凛とした声で述べた。

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