悪魔と人間
自分のアパートへ戻ると、目の前にあの時と同じ光景が現れた。


疲れて仕事から帰ってきたときと同じ、玄関先に金色に光る袋が置かれていたのだ。


幸男はしばらくポカンと口をあけていたが、すぐにその袋に飛びついた。


中身も、全く同じだ。


しばらく呆然としていたが、すぐに考え直した。


「これだけあれば……」


幸男は呟く。


もしかしたら、逃げ切れるかもしれない。


その考えが幸男の脳裏を支配した。

もはや玄関先に置かれた袋に疑問など抱かない。


幸男はシャワーを浴びて体に付いた血を洗い流すと、現金だけを持ってアパートを出た。


まるで真夏のサンタクロースのように大きな袋を肩からさげているが、今は夜中だ。

野良猫くらいしか見ているものはいない。
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