悪魔と人間
男はこの辺では有名な組のボスだった。


「で? 死体はどうした」


さすがヤクザだ、こういうゴタゴタにも慣れているのか冷静に幸男の話を聞いた。


「そのままです」


幸男は、ようやく額から流れる汗が止まったところだ。


男は体に似合わず小さな携帯を取り出すと、その場を離れた。


それと同時に、幸男は大きく息を吐き出した。


まさか、自分がヤクザの家で人殺しをしたから助けてくれ、なんて懇願する日が来るなんて考えてもいなかった。


本当なら今頃いつものように会社へ行き、ムカツク上司のグチを聞きながらおばさん連中と話をしていたハズだ。


けど、俺は変わった。


幸男は口元に笑みを作った。


人間を二人も殺し、ヤクザに助けを求めるほどの大物になったのだ。
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