臆病者の僕は、別れの時に君にバカと言った
 お化け寺は、いつも以上に奇妙な雰囲気を醸し出していた。秘密基地の中に入り、外を見ながら、膝を抱えて椅子に座る。
「転校するの」
 あの時の七海の言葉が、鮮明に蘇ってきた。
「なんでだよ」
 どうしようもない無力感を覚えながら、これからのことを考えた。
 あの日、七海は『もう会えない』と言って泣いた。僕はそれを励ますために『大丈夫』と言って慰めた。
 その言葉に、自信などなかった。けれど、嘘はなかった。
 今から何をするべきなのかを、考える。
 ドラマのように彼女の手を握り、どこかへ逃げることなど、出来やしない。
 その時、僕が必至に考えて出来たのが、あのルールだった。
『秘密基地で会えなかったら、手紙を置いておく』
 毎日会えないのなら、せめてすれ違いだけでもなくそうと考えた末のルールだった。

 夏休みに入ってから、僕らはあの秘密基地で出会うことは少なくなった。会えば話もしたし、いつも通り僕はドキドキしていた。
 少し変わったことといえば、休んだ日に思い立った『手紙』の件だけだ。
 例えここに来る回数が減って、すれ違ったとしても、手紙があればやりとりできるのだと知った彼女は、喜んでくれた。
 僕は手紙のやりとりをする為に、雨を防げそうな菓子の入っていた缶を地面に設置した。
 七海の引越しの日が近づくに連れて、彼女はここに来ることが少なくなった。しかし、手紙は来ていたので、避けられていたのだと思う。夏休み中なら時間を作って一日彼女が来るのを待つことも出来たが、それをしなかった。
 僕も、彼女に会っていいのかが、わからなかったからだ。


 けれど、引越しの前日。





 僕らはそこで出会った。




 そして僕は、そこで最大の後悔を作ってしまうことになる。




「あれ?」
 埋めてある菓子缶の中に手紙を入れようとしている七海を見つけて、僕はそんな声を上げた。
「久人……」
 白いワンピースに大きな麦藁帽子を被った彼女の肌は、幾分か焼けていた。
「久しぶりじゃん?」
 そう言うと、彼女は入れかけの手紙をまたポケットに入れて、微笑んだ。
「久人こそ」
 何日か会ってないだけで、彼女が眩しく見える。胸の鼓動がいつもよりも速くなっていくのがわかる。
「明日、引越すんだ」
 彼女のその言葉に、ただ「うん……」としか返すことが出来ない。
「なあ、夏休みって何してたんだ?」
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