臆病者の僕は、別れの時に君にバカと言った
「うーん、ここに来る以外はチー子達と遊んだりしてたかな。あとは……引越しのお手伝いぐらい」
「へえ」
「久人はなにしてたの?」
「俺?俺はビスの散歩に、八木達とプール行ったり……そうそう、この前旅行行ってさ、その中に入れといたお土産、見た?」
「キーホルダーのやつ?」
「うん。あっちのご当地限定のキーホルダーってやつ買ってきたんだ。レジに出すの、すごく恥ずかしかった」
 そのキーホルダーを七海は、ポケットから出すと、こちらに見せた。
「これ、だよね」
「そうそう」
 ネコがマリモを被ったそれを七海が左右に揺らすと、根本に付いている鈴が微かに鳴った。
「いい音」
「大事にしてくれよ」
「うん、勿論だよ」
 一陣の風が、僕らの間に通り抜けた。
 彼女の匂いが、こちらにも届いてくる。
「ねえ」
 七海がこちらに近寄って、顔を近づける。
「私のこと、どう思ってる?」
 心臓が壊れてしまいそうな程の早鐘を打ち始める。
「なんで?」
 僕の口から出てきた言葉は、それだった。
『急なことで混乱したから……』今思えば、そう言ってしまったのは、そんな理由だったのだろうと思う。
「久人は何も思ってないよね」
 七海は僕の心にある感情を知りながら、そう言ってきた。僕がどう思っているのかをちゃんと言ってほしい、それを私の口から言わせないで、と言っているかのようだった。
 しかし、僕は『好き』という言葉が口から出てこず、彼女を見つめ返すことしか出来ずにいた。
 不意に彼女は僕から離れて、秘密基地の外へと向かった。
「七海!」
「……いくじなしだね、久人って」
 そう言うと、彼女は外に出て夏の日差しの中へと溶けていく。
「ちょっと待てよ!」
 また頭をぶつけたが、それに構わず僕は溶けようとする七海の後を追いかける為にがむしゃらに這い進んで、外へと出た。
「七海!」
 皮膚を打つ日差しが、汗をかかせた。
「なあに?」
 先ほどとは違う、屈託のない笑顔を、彼女がこちらに向けた。
「俺さ、七海のことが」
「バーカ。今言っても、もう遅いよ」
「でも、俺」
「ダメ!もう、今さっきので終わり!チャンスは一回だけなんだよ?わかったかな、久人クーン」
「……バーカ」
「なっ……なんでそんなこと言うのよ!」
「お前も俺に告白してもらえるなんて思うなよ、バーカ」
「これだから、男子ってガキ!」
「うるせー!」
「久人のバーカ!」
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