臆病者の僕は、別れの時に君にバカと言った
 ビスは寺の前で、ひらひらと舞う蝶を、尻尾を振りながら追い掛け回していた。
 僕の姿に気づくと、蝶を追いかけるのをやめてこちらに走ってきた。僕の周囲をぐるぐると走り回ると、また寺へと駆け出していく。
 その行動は、なんだか『まだまだ遊べますよ』と言っているかのようだった。
 僕は呆れと、寺がそこまで怖くなかったことへの安堵感からか、妙な疲れを覚えた。ビスを追いかけることもせず、近くにあった比較的綺麗な木製のベンチに座り、ビスが蝶を追いかけるのをぼんやりと見ていた。ビスは蝶を好きなだけ追いかけた後、尻尾を振りながら探検を始めた。植木の匂いを嗅ぐ、賽銭箱の前に座り込んで尻尾を振ったり、と好き放題にしていた。僕の目の届く範囲内にいるなら、特に追いかける必要もないと思い、ベンチにもたれかかりながらそれを見る。
 しかし、本堂の裏側にビスが走っていったのを見て、面倒なことになると思った僕は、立ち上がり、すぐに追いかけた。
 本堂は近づくとボロが目立った。壁などの崩れなどはないものの、木にはツタが絡まり、裂け目が走っているところもあり、そこから中にある仏像の目が見えて、僕はすぐに目を背けた。
 本堂の裏手に回ると、雑木林との隙間にビスが入り込んでいた。
「ビス!」
 名前を呼ぶと、ビスは本堂の下に入っていき、こちらに向かって吠えた。挑発されたと感じた僕は、少し頭を下げれば入れるその場所へと潜りこんだ。
 潜りこんだその場所は、教室ぐらいの広さがあり、ビスが走り回っている。
「秘密基地にぴったりじゃん」
 屋根があって、しかも、目の前の雑木林のおかげで見つかる確率も低い。
 秘密基地を作るのにはうってつけの場所だった。
 どこに何を置くのかを夢想していると、追いかけてこないことに心配をしたビスが、僕の顔を舐めてきた。
 ビスの体を両手でしっかりと捕まえると、その体をもみくちゃにするように両手で撫でた。
「よくやった!ビス、よくやったぞ!」
 迷惑そうな顔をしながら離れようとするビスを抱きながら、ここは自分だけの秘密基地にしようと思った。


 その後、秘密基地にどんどん物が運び込まれた。
 ゴミ捨て場から拾った座椅子や一部が壊れた本棚に、家から持って来た『カッコイイ』と思う道具や、読めそうもないが表紙がかっこいい外国語の本などを運び込んだ。
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