零時の休息
心に月を
心の奥には、深い深い森が果てしなく広がっている。



季節の巡らない色褪せた森。



高い窓から降る青い月光。



机がひとつ中央にあるだけの部屋で、青年は出来上がったばかりのケーキと紅茶を楽しそうにセッティングする。まもなく訪れる来客のために……もうすぐ、零時になる。



カチッと針がその時を指し示した瞬間、ドアが開く。




「おつかれさま。いい加減休まないと、死んでしまうよ」



柔和な笑顔。なのに、瞳の奥は全然笑ってない。それに死ぬとは、何を指しているのだろう? この前受けた健康診断だって、問題なしのむしろ健康そのものだった。だからつい言い返してしまった腹が立って。



「あの失礼ですが、冗談ならやめてください。ちゃんとやることやって何もないのに、どうして見ず知らずのあなたにそんな事言われなきゃいけないんですか」


「……ふーん。都合のいい瞳をお持ちなんですね。もう腐ってしまわれたのかな」



嘲笑する青年。毒を含んだ物言いに、またカチンときてしまう。こんな場所からはやく出ていくんだと振り返る――しかし、そこにドアはもうなかった。確かに、あったはずの。




――え? 



一瞬目を疑う。どんな手品を使えば、こんな非現実なことが起こりうるのか。


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