わんこ系男子と甘々な日常
「………」
「…………」
「あ……あれかぁ」
「思い出すのが遅いよ!」
「……ごめんごめん」
蒼空くんの血の滲むような努力を持ってしても約束は果たされないだろうと思って、言われるまでは完全に忘れてた。
"最後の委員会の後"って言われたらピンと来たんだけど、蒼空くんはそんな私の様子にご立腹の様子。
ちゃんとしっかり思い出すからそんなに怒んないで。
えっとあれは……中学三年生の秋頃だったかな。
校舎の周りに生えた金木犀が辺りを眩しいオレンジ色に染めていて。
甘い香りに満たされた空間で穏やかな時間を過ごした。
廊下で見かける度にいつも女の子たちに絡まれていた蒼空くん。
そんな蒼空くんをひとりじめできるこの時間が、私はわりと気に入っていたから。
こうしてゆっくり話せるのも最後なんだろうと思うと、たくさん話しても物足りないって思ったし、もどかしさを感じた。
あの、お気に入りのお菓子が生産終了すると知らされたときのような、なんとも言えない気持ちと同じで。
なくても生きていけるけどなかったらつまんない、みたいな。
そういうぼやっとした、でも確かに負の感情だとわかるもの。