彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
「お、お見舞いに来てくれたの」


ここで誤魔化せば後から面倒暗いことになりそうだと思い、素直に伝えた。


坂下さんは腕組みをして更にすごみのある視線を私へ向ける。


「でも、ただそれだけだから」


それで会話を切り上げようとしたのに、坂下さんに腕を掴まれて引き止められてしまった。


ここは階段の真ん中だから無理に振り払うような危険なことはできなかった。


私は仕方なく足を止めて、また坂下さんと対峙する形になってしまった。


「あんたさ、しばらく教室に来てなかったから知らないんでしょう?」


「え?」


坂下さんの声色が急に変わった。


さっきまでは今にも私を噛み殺してしまいそうな勢いで怒っていたのに、今では粘っこく、絡みつくような声色になっている。


その変化に気がついて、私は背筋がゾクリと寒くなる。


「佳太くんって生徒だと思っているでしょう?」


その言葉に私はまばたきを繰り返す。


確かに私は佳太くんの私服姿しか見たことがなかった。


だけどこの学校にいることは確かだし、年齢もそんなに離れているような雰囲気ではない。


生徒でなければなんだろういうんだろう?


亡霊や七不思議のひとつなんて言われることはないと思うけれど……。


「あの人、教育時実習生なんだよ」
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