彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
☆☆☆

佳太くんが教育実習生?


株をあげるために私に会っていた?


じゃあ、昨日のキスは……?


思い出して涙が滲んできそうになり、慌てて目に力を込めて押し戻した。


ここはA組の教室内だ。


こんなところで泣くわけにはいかない。


「知奈ちゃん、次移動教室だよ、一緒に行こう」


雪ちゃんが声をかけてくれて、次の授業が化学であることを思い出した。


それでも体はやる気がでずにノロノロと準備を進めて、重たい腰をやっとの思いで上げた。


そして廊下に出た時、人だかりができているのを見かけた。


そう言えば以前3年生の廊下でも同じような光景を見たことが会ったかもしれない。


あの時は佳太くんを探すので一生懸命で、横を素通りしていったんだっけ。


みんな一体なにを取り囲んでいるんだろうか?


そう思ったときだった。


「佳太先生!」


男子生徒のそんな声が聞こえてきて、私は足を止めた。


その声は人だかりの中から聞こえてきた。


「知奈ちゃんどうしたの?」


急に立ち止まった私に雪ちゃんが心配そうな声をかけてくれたけれど、それにも気が付かなかった。


人だかりの中心にいる人物に視線を向ける。


3年生の廊下で見た時と同じ、背の高い男性が立っている。


その人はスーツを身に着けていて、生徒たちから先生と呼ばれていて、そして……。


「はいはい、また今度聞くから」


と、呆れた様子で答えるその声は……「佳太くん?」思わず声をかけてしまっていた。


自分の声は上ずり、震えている。
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