彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
相手の子は「こっちこそごめんね」と早口で言うと友人と共に教室を出ていってしまった。


私はその後姿を見送って大きく息を吐き出す。


さっきの子、名前なんて言うのかな。


きっと傷つけてしまった。


それとも、変な子だと思ったかもしれない。


どっちにしてもまたも失敗だ。


椅子に座り、落ち込んで突っ伏す。


どうしてこううまく行かないんだろう。


私と同じ病気の人の中には自分が病気だと気が付かないままに過ごしている人もいるというのに。


「知奈ちゃんどうしたの? 具合悪いの?」


鈴の音だ!


がばっと顔を上げると机の前に雪ちゃんが立っていた。


今の声、間違いなく雪ちゃんだ。


「ゆ、雪ちゃん、昨日はごめんね。私、誰かがわからないなんて言って」


焦って早口になるのをグッとこらえて、一文字一文字しっかりと発音する。


すると雪ちゃんは笑ってくれた。


「まだそんんこと気にしてるの? それより昨日の宿題やった?」


最初からすっごく難しかったよねぇ。


雪ちゃんのうんざりしたような声。


よかった、もう怒ってなさそう。


私は安心して雪ちゃんとの会話に加わったのだった。
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