彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
化学教室の前までやってきた私は教室のドアにカギがかかっていることに気がついて首をかしげた。


次は化学の授業のはずなのに、周囲に生徒の姿も見えない。


私が時間割を見間違えたんだろうか?


授業開始まであと3分ほどしかない。


すぐに教室へ戻ろうと踵をかえしたとき、「矢沢?」と声をかけられた。


この男の人の声は担任の先生だ。


すぐに気がついた私は立ち止まって振り向いた。


白いシャツにエンジ色のネクタイが見える。


「先生……」


「どうした? 次の授業は教室で数学になったはずだぞ?」


「そ、そうなんですか」


腕時計に視線を落とすとあと2分で始まってしまう。


今から走って教室へ戻ればギリギリ間に合う。


しかし、先生に引き止められてしまった。


「聞いてないのか?」


先生の声が怪訝そうになる。


「いえ、私の勘違いです」


「本当か? もしかして、クラスでなにか困ったことでもあるんじゃないのか?」


質問され、答えられなくなってしまった。
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