彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
みんなが授業を受けている中1人だけ教室に入るのは勇気がいる。


私は教室後方の戸の前で一度立ち止まり、深呼吸をした。


戸を開けたときのみんなの反応が目に浮かんでくるようだった。


蔑んだような笑い。


かわいそうという同情の声。


そして、せせら笑いだ。


戸に手をかけようしていた右手を思わず引っ込めてしまう。


ここで教室へ入れば自らを傷つけてしまうことになるだけだ。


かと言ってどこにも行く場所はない。


しばらく呆然としてその場に立ち尽くしていたが、クラス内から突然どっとあふれるように聞こえてきた笑い声に体がビクリとはねてしまった。


先生がなにかおもしろいことでも言ったのかもしれない。


余計に教室へ入りづらい雰囲気になってしまい、私は下唇を噛み締めてA組の前をはなれたのだった。
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