彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
☆☆☆

翌日、ホームルームが終わったあと私は大田先生と呼び止めた。


「どうした?」


大田先生は相変わらず腰を落として話をしてくれる。


「私服姿の生徒?」


「はい。昨日花壇で見かけたんです」


大田先生は首をかしげて、う~んと唸り声を上げる。


「ちょっとわからないな。私服姿で登校してくる生徒はもちろんいないし、放課後になって着替えるような生徒がいたっけな?」


頭をかいて考えても出てこないようだ。


1人だけ私服で下校していれば目立つはずなのに。


もしかしたら先生にバレないようにこそこそと帰っているのかもしれない。


その様子を想像して少しおかしくなって笑ってしまった。


こそこそ帰るくらいなら学校内では着替えなければいいのにと思う。


たとえば駅のトイレとか、公園とか、色々と場所はあると思う。


それでも学校で着替えないといけない理由ってなんだろう?


彼のことが余計に不思議になり、興味を惹かれる。


昨日の放課後彼は『また明日ね』と言ってくれた。


「先生、私今日も花壇の水やりに行きますね」


突然話題を変えて宣言した私に先生は目を白黒させていたが、私はそれに気が付かず、鼻歌まじりに自分の席へと戻ったのだった。
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