彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
☆☆☆

天気のいい日の水やりは心地いい。


シャワーのように舞い散る水の中に虹が出現して、それが花に降り注いでいるように見える。


「来てくれたんだね」


その声に心臓が大きく1回跳ねた。


振り返るとそこには私服姿の男子が立っている。


それにこの声、間違いなく昨日の彼だ。


「約束したので」


私は恥ずかしさのためとても小さな声でしか返事ができなかった。


自分だけこんなに相手のことを意識してしまってなんだかバカみたいだとも感じる。


それでも昨日始めて出会ったときから彼のことが頭の中から離れなくなっていたことは、紛れもない事実だ。


「ねぇ、どうして私服なんですか?」


昨日聞くことができなかった質問をする。


本当はもっと、相手の学年とか名前を先に聞くべきなのかもしれないが、昨日聞きそびれたそれは、聞かなくても必要のないことのように感じられていた。


聞いてしまうと、自分と彼との距離を感じると言うか。


「制服の下に来てきているんだ。そのまま出かけられるようにね」


「やっぱり、そんなことだろうと思ってました」


私は笑って答えた。
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