彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
一旦家に戻るのがめんどくさいだけのことらしい。


「先生にバレたら怒られるのに」


水やりの花へ視線を戻してそう呟くが、その声は相手には聞こえなかったようだ。


「君は花に詳しいの?」


「ううん。だけど花は好きです。見ていると心が洗われるような気がするから」


特に水に濡れる花はキラキラと輝いていて、まるで宝石をまとっているようだ。


朝露に濡れるバラの花なんて高貴な女王様といった雰囲気を持っている。


「なるほど、君は純粋なんだね」


「純粋?」


そんなこと言われたことがなくて返事に困ってしまう。


自分自身、自分が純粋だなんて思ったことはない。


いつもどこか卑屈で後ろ向きで、だからこの病気ともうまく付き合えなくなっている気がしてならない。


そんな気持ちが顔に出ていたようで、伸びてきた彼の手が私の眉間をつんっとつついた。


「すっごいシワ寄ってる。おばあちゃんみたい」


そう言ってくすくす笑われて私はカッと顔が熱くなる。


「お、おばあちゃんって! ひどいじゃないですか!」


「あはは。だってあまりにもしかめっ面だったから、つい」


彼はおかしそうな笑い声を立てて言う。


「それより、明日の予定は?」


ひとしきり笑った後、不意にそんな質問をされた。


「明日ですか? 明日は普通に学校ですけど」
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