彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
☆☆☆

そんなに長い間離れていたわけでもないのに、A組に近づくにつれて鼓動は早くなって来て嫌な記憶が蘇ってくる。


机のラクガキを思い出していたときA組の教室に到着してしまった。


閉められている戸の前で立ち止まり何度も深呼吸を繰り返す。


大丈夫。


無理はしなくていいんだし、すぐに特別学級へ戻ることもできるから。


それに、A組に戻るのは彼を探すためだ。


特別学級にいたら渡り廊下を渡って本館へ戻ってこないと行けないから、短い休憩時間での人探しは難しい。


だからここへ来ただけ。


自分自身に言い聞かせて戸に手を伸ばす。


勇気を振り絞って戸を開けて一歩教室へ踏み込んだ瞬間、みんなの会話が止まった。


急に静まり返った教室内に背中から汗が吹き出す。


それでもなにも気が付かないふりをして自分の席へと向かう。


机の上を見てなんのラクガキもないことを確認して、ひとまず安心した。


みんな、私がいないからわざわざラクガキもしていなかったんだろう。


「なんでこっち来てんの? クラス間違えてるんじゃない?」


椅子に座ったタイミングでそんな声が飛んできた。


これは坂下さんだ。


坂下さんたちはいつも私にちょっかいを出してきているから、気にする必要はない。
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