彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
「そっか。でもまる1日クラスにいる必要はないんじゃないかな? 1日のうちに1時ずつくらいで頑張っていけばいいんじゃない?」


彼はなにも知らないはずなのにそんなことを当たり前みたいに言う。


「本当にそう思いますか?」


「もちろん。無理してクラスに行って苦しくなるくらいなら、行かなくてもいいと思うよ?」


「だけどクラスでの勉強なんて誰でもできることですよね。できて当たり前ですよね?」


今日A組にいたのは彼を探すためだったのだけれど、私はついムキになってしまっていた。


また芝桜が水に溺れていて慌ててノズルをひねって水を止めた。


「できて当たり前のことなんでないよ」


それはとても真剣な声だった。


嘘をついているとか、慰めで言っているような声色ではない。


彼は本当にそう思っているのだろう。


「誰かにとっての常識は、誰かにとっての非常識って言葉を知らない?」


私は左右に首を振る。


初めて聞く言葉だった。


「例えば現在進行系で戦争をしている国があって、その国からすればいつ死ぬかわからないのが当たり前の日常なんだ。だけど俺たちにとっては違う。いつ死ぬかわからないことが同じだとしても、それは全くリアルじゃない。目の前で人が死ぬことだって、とても考えられないような世界で生きている」


気がつけば私は彼の言葉に真剣に耳を傾けていた。
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