彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
☆☆☆

待ちに待った花壇へ向かうとすでにその姿はあった。


手にはホースが握られていて、虹がかかっている。


「ご、ごめんなさい!」


私は慌てて彼に駆け寄ってホースを受け取る。


これは本来私の仕事だ。


彼は偶然ここへ来ただけ。


「気にしなくていいのに」


彼はくすくすと笑う。


「でも私の仕事ですから」


「真面目なんだね」


彼は笑いを止めずに言った。


そう言われるとなんとなく恥ずかしくなって視線を下げた。


花壇にはもう十分水が行き渡っているようで、随分前から彼がここにいることを知らせていた。


私はホースを片付けて彼の隣に立つ。


「今日は早かったんですね」


「やることが早く終わったからね」


「そうなんですね」


やることってなんだろう。


3年生だから部活の引き継ぎ準備とか、受験や就職の準備とか、色々とありそうだ。
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