彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
失顔症
私が他人の顔を認識できなくなったのは小学校の頃からだった。


あれは小学校からの帰り道。


いつも一緒に帰っている友達が今日は風邪で休んでしまって、私は1人で家までの通学路を歩いていた。


といってももう小学4年生だ。


3年前までは5年生や6年生の人たちと登下校していたけれど、今では1人でも平気だ。


歩きなれた道をスキップしそうな勢いで歩いていく。


今日は帰ったらお母さんと一緒にショッピングへ行くのだ。


駅前に大きなショッピングモールがあるから、そこへ行く。


そこへ行くとお母さんはいつも買い物の途中でソフトクリームを食べさせてくれる。


それが嬉しかった。


自分の家まであと少し。


あの信号機を渡って、右に折れたらもう見える。


自然と歩調は早くなり、鼻歌が漏れ出した。


機嫌がいいときの私の癖だ。


ふんふんと小気味よく口ずさみ、青信号の横断歩道を渡っていく。


もう少し。


もう少し。


その瞬間だった。
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