彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
赤信号のはずの道路から一台の軽自動車が飛び出してきたのだ。


軽自動車が視界の端に見えた瞬間、私は思わず足を止めていた。


視線を向けると、目を大きく見開いた運転手と視線がぶつかった。


周囲から鳴り響くクラクションの音と、偶然通りかかった人たちの怒号が聞こえてくる。


「早く逃げろ!!」


どこからか聞こえてきた男性の声にようやく足が動いた。


あれは自分へ向けられている言葉なのだとやっと脳が理解したのだ。


ハッと息を飲んで一歩足を踏み出す。


だけど遅かった。


信号無視の軽自動車はすでに私の目の前に迫ってきていたのだ。


そこから先の事はよく覚えていない。


軽自動車が私に突っ込んできたこととか、頭を強くぶつけたことなんかは、目が冷めたとき病院で聞かされたことだった。


だから自分の頭に包帯が巻かれていても、なんだか不思議な気分だった。


頭も痛い感覚があったけれど、それよりも私は体中にできた打ち身や擦り傷のほうがずっと痛かった。


それからしばらく入院をして色々な検査をすることになった。


レントゲンやCTスキャン、MRIなど、見たことも聞いたこともない機械に入れられてまるで自分が何かの実験台にでもなった気分だった。
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