その甘いキスにご注意を ~鬼上司の顔の裏に隠された深い愛情と激しい熱情~
でも、私がここまで来るまでの道のりは大変なものだった。
まずは体型。
ほんとに、あの時のBMIを計算していたら恐ろしい数値になっていたんじゃないかと思う体系だった。
毎日朝30分ほど早く起きてランニングをし、あれほど好きだったお菓子やジュースもめちゃくちゃ我慢した。
何か食べたくなった時には温かいお茶でお腹を誤魔化し、食事も野菜を多く、食べる順番も野菜、タンパク質、最後に炭水化物の順を意識して食べた。
元々食べることが好きだった私は、たまには楽しく食事をしたいと思ったこともたくさんあった。
でも、その度にそれは駄目だと自分に言い聞かせてきた。
ランニングを続けることで体力が増え、脂肪が落ちることで体が軽くなった。
ダイエットにゴールが見えてきた頃、私は自分が案外スポーツが出来る身体だと知り、運動音痴を克服していた。
次に顔。
その時の私の顔は、今からしてみればアルバムの個人写真を油性のマジックペンで黒く塗りつぶしてしまいたくなるほどひどいもので。
なんとか鼻の高さはあったものの、太っていたせいで正面から見ればそれはペシャンコの哀れなにんにく鼻。
周りに脂肪のつきまくった目は完璧なる一重で、時代はぱっちり二重が可愛いと定義される世の中なのに、平安時代の大和絵に出てくるようなほっそながい目。
最初にダイエットにいそしみ、それが成功した甲斐もあって少しは改善されていたものの、それも劇的に変わったというわけではなくて、”マシになった”程度。
色々サイトとか動画を見まくって、理想の顔になれるようなマッサージ方法を探して実践してみたりもした。
あと、なけなしのお小遣いでメイク用品を買って、研究したりもした。これは結構楽しかった。
あと私がもう一つ努力したもの、それは勉強。
”いい男”を捕まえるためには、いい会社に入らなきゃいけない。
そのためにはいい大学を卒業しなきゃいけない。
そしてそのためには、進学校に合格しなければならない。
最悪のフラれ方をしてから数か月後、進級して受験生となった私は県内でも有数の進学校に合格するため、めちゃくちゃ勉強を頑張った。
全ては”いい男”を捕まえるため。
それだけのために、私はこれまですごく努力をしてきた。
でも、それと引き換えに。
私は妥協を許さず、自分に厳しくなった。
完璧主義、といったところだろうか、性格の丸さがなくなってしまったのだ。
私はいわゆる、”鉄の女”になってしまった。