その甘いキスにご注意を ~鬼上司の顔の裏に隠された深い愛情と激しい熱情~
……ん? 誰?
聞いたことない声に、私は首をかしげながら声の主を見上げた。

初めて見る人だ。
一重瞼に、なんだか人のよさそうな笑みを浮かべている唇。
体型はThe・普通って感じで、なんか優しそうな印象の人だ。

「どうぞ」
「ありがとう」

食事の乗ったトレーをテーブルに置き、椅子に腰かける彼は私の顔を見ずに苦笑いを浮かべて言った。

「いやー、流石にこの時間帯は混んでますね。僕、空席見つけるのに時間かかっちゃって」
「確かに、混んでますよね。私もいつも、結構歩き回ってます」
「だよね」

なんか、初対面なのに馴れ馴れしい……いや、フレンドリーな人だ。
彼は手を合わせて「いただきます」と言い、食事を始めた。

私も食事を進めながら、こっそりと彼の左胸にあるネームプレートを見る。
KOHAKUでは、社員は派遣も含めて全員、服の左胸部分に金属を模したプラスチック製の、鈍い銀色のネームプレートを付けることを義務付けられている。
そこには所属している部や課、そして苗字が黒い文字で刻まれている。
私が見たネームプレートには、こう書かれていた。


『営業部 田浦』
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