白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
序章

0.  突然の別離

 いつも柔らかな笑みを浮かべているのに、今日は何だか強張ったような表情を浮かべているのを見た時、ひどくいやな予感がした。

 勧めたソファに腰を下ろそうともせず、すぐ帰る気配を見せた時に予感は確信に変わった。


 だけど、まさか。

「ロゼ――突然の話で申し訳ないけど、僕との婚約を解消して欲しい」

 婚約の解消を切り出されるだなんて思ってもみなかった。




「クロード様……?」

 本当に突然としか言い様のない申し出に、ロゼリエッタは信じられない思いで目の前の婚約者を見つめた。


 女性として愛されていないことはずっと前から知っている。それでも婚約者を経て、いずれは夫婦という関係も恙なく続けて行けるだけの好意は抱かれている自負はあった。

 だけど政略結婚の相手にすらしたくないと感じるほどに、ひどく嫌われてしまうような何かをしでかしてしまったのだろうか。


 その心当たりがないわけではない。

 先日の夜会でロゼリエッタはクロードとほとんど会話もせず、あまつさえ一人で先に帰った。

 でもそれはクロードも望んでいたはずのことだ。

 会話も、先に帰ると言ったロゼリエッタを引き留めることも、クロードはしなかった。


 でも、たった一日の出来事だけでクロードが婚約を解消しようとする短絡的な人物だなんて、思えないし思いたくもない。

 ならば以前からロゼリエッタに対する不満が積もり続けていて、夜会での振る舞いが引き金になったということなのだろうか。

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