白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「ほんの少しの間、邪魔立てできないよう眠っていただいてるだけです。ただし、あなたの出方次第によっては穏便に済ませることは難しいでしょう」

「あなたが一人で……護衛の二人と御者を……?」

「ええ、まあ。ずいぶんと油断なさっておられたようですし、隙を突かせていただきました」

 体格も良く、甲冑を纏う身で扉に身体を差し込むのは些か窮屈なようだ。衛兵は唯一のぞく口元を不機嫌そうに歪ませた。

 この状態が長引くのは非常に好ましくない。衝動的な感情をぶつけられることは恐ろしかった。だけど、犯してもいない罪を認めたらそれこそどうなってしまうのだろう。ロゼリエッタは無実を訴えるべく首を振った。

「私は、神に誓ってそのようなことはしておりません」

「あなたが潔白かどうかはこちらが判断することです」

 衛兵は淡々と言葉を紡ぎ、ロゼリエッタの手首を掴んだ。それほど力をくわえるつもりはなかったのかもしれない。けれど華奢な手首はきつく締め上げられたかのように痛みを伴って鈍く軋んだ。

「痛……っ」

 思わず悲鳴をあげたロゼリエッタに、アイリが血相を変えて声を張り上げる。

「お待ち下さい! お嬢様に手荒なまねは一切なさらないと、それが協力するにあたって最優先されるべきお約束だったはずです!」

「アイリ……?」

 ロゼリエッタはアイリを見つめた。


 それではまるで、アイリが本当に彼らの仲間であるみたいではないか。

 ロゼリエッタの安全を保証させ、代わりに無実の罪を着せて引き渡すことを了承していた。

 そう物語っているみたいではないか。

「アイリ……。ずっと私を騙していたの?」

 問いかける声はひどく空虚なものだった。

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