白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「なるほど。ロゼリエッタ様のご要望は分かりました」

 オードリーは軽く頷き、わずかな間を置いて次の言葉を告げる。

「では明日、熱が完全に下がっておりましたら、私と一緒にクッキーでも作りましょうか」

「クッキーを……?」

 話の流れが掴めなくて目を瞬かせると、オードリーはいたずらっぽく微笑んだ。

「ロゼリエッタ様がクッキーを焼いたからとお茶に誘えば、シェイド様は断ることができませんよ」

 本当にそうならとても嬉しく思う。

 だけど、ロゼリエッタは自分でクッキーを作ったことなどなかった。ましてや食べられるほどに上手なものを、となると作れる気がしない。

「簡単に作れますから大丈夫ですよ。もちろん私もお手伝い致しますから」

「――本当に?」

「ええ。クッキーの味もお茶会も成功を保証致します」

 不安げなロゼリエッタを励ます様が、いつかのアイリと重なった。


 クロードと共に出掛ける夜会の準備をしていて、ベビーピンクのドレスが似合ってはいないのではないかと心配していたあの時。

 根拠もないのに力強く肯定してくれた時と同じだ。

「でもシェイド様はお忙しいのではないかしら」

「どうせわずかばかりの執務をして、後は鍛錬くらいしかすることはないはずです。だからロゼリエッタ様がご想像されるほど時間に追われてはいませんよ」

「そうなの……?」

 シェイドが何をしているのかなんて分からない。

 姿を見ることもないのだから忙しく過ごしているものだとばかり思っていたけれど、部屋を出ないから見かけないだけなのかと思うと少し気が楽になった。

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