白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

27. 泡沫の幸せ

「お身体の具合は大丈夫ですか?」

「はい。ご迷惑とご心配をおかけしましたが、今はもう普段と変わらない体調まで回復しております」

 翌朝、食堂に向かって朝食の席に着くと、すでに来ていたシェイドが気遣いの言葉をかけた。

 オードリーの勧めに従って、さらに大事を取って昨日一日をベッドの上で過ごしたおかげで元気になっている。ロゼリエッタが頷けば顔色の良さもあって信用したのか、シェイドも小さく頷き返した。


 昨日は眠り続けていたこともあり、シェイドとは一度も顔を合わせていない。

 もっとも、婚約者のいる年頃の女性の部屋に家族でもない男性がいるのは褒められたことではなかった。不純な不貞目的ではなくとも、夜更けに看病してくれたらしいことは異端なのだ。


 最初の夜に付き添ってくれたことへのお礼を言うべきか迷い、やめる。

 ロゼリエッタが目を覚ます前にシェイドはもういなくなっていた。勝手に髪に触れてしまった手前、ロゼリエッタも気がついていたとは言い出しにくい。

 そして多分、お互いに何もなかったふりを続けていた方が良いような気がした。

「元気になりましたし、シェイド様にお願いごとをしてもよろしいでしょうか」

「お願いごと?」

 どんな反応があるか、緊張に胸を高鳴らせながら頷き返す。

 ロゼリエッタからクロードにお願いごとなんて一度だってしたことがない。

 だから聞いてもらえるか不安でいっぱいだった。


 でもクロードへのお願いごとじゃない。シェイドへのお願いごとだ。それならきっと、聞いてもらえるはず。

 願望を胸に、言葉を続ける。

「朝食の後でキッチンを少しお借りしたいのです」

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