白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 一緒に庭園を散策してくれると、お昼もそこで一緒に摂ろうと言ってくれた時は本当に嬉しかった。

 でも結局はまともな会話もないまま、せっかく用意されたおいしいはずの料理もどこか味気ないまま食事を終えた。

 食器を片付け、代わりに食後のお茶の準備が進められて行く様を無言で眺める。


 林檎の香りがする湯気を立ち昇らせる、白地に淡い色で花の絵を描いたティーカップ。

 純銀のケーキスタンドに乗った、飾りつけも可愛らしい一口大の焼き菓子たち。

 テーブルの上の世界だけが夢のように甘く、ロゼリエッタは一人、何もない外の世界に取り残されている。


 もしかしたら手が届いていたかもしれないそれらを羨ましく思いながら、欲しいくせに言葉を飲み込んで見つめているのだ。

(それは、人形とは何が違うの)

 腕に抱き、愛でてくれる存在が現れる日を待つだけの人形と変わらない。

 いや、語らずとも傍にいるだけで心の慰めになる人形の方が、ずっとましだ。


 ロゼリエッタは顔を上げた。

「――あの、シェイド様」

「何でしょうか」

 返してくれる視線も声も感情が窺えず、数刻前の優しさの面影すらどこにも見えない。

 あの穏やかな時間はロゼリエッタの願望が生み出した幻だったのだ。

 そう自分に言い聞かせ、最後に得た幸せなひとときを目を閉じて焼きつける。けれどあまり浸っていると泣いてしまうから無理やり目を開けた。


 息を深く吸い込み、問いかける。

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