白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

31. 王位継承権を持つもう一人

「嘘とは一体、何でしょうか」

「一つは――この屋敷は、僕の母が住んでいた屋敷ではありません」

 ああ、やっぱり。


 数日前から漠然と抱き、庭園を散策して強まるばかりの違和感の答えをシェイドから教えてくれるとは思わなかった。


 薄々とではあったがすでに察していたからなのか。真実を明かされて驚いたり、騙されていた怒りやショックを覚えるよりも、納得する気持ちの方が上回った。

 告げられた言葉は心にも表情にも一切の波風を立てることなく、ただ奥へと落ちて行く。

「あなたが庭園から見える尖塔の姿に気がつき、場所について問われた時は正直にお話ししようと最初から決めていました。ですが、王家が所有する離宮の一つだと知れば、あなたはきっとすぐにでもここを出たいと思うでしょう。それを避けたくて場所はできる限り伏せていたのです」

 手配のしやすさや警備の頑強さからしても、この屋敷は最高の立地だった。

 だけどシェイドの言うように、離宮だと知っていたらロゼリエッタは家に戻ることを強く願っていたかもしれない。


 この屋敷に留まったのは、どことも知れない場所からお嬢様育ちのロゼリエッタがどこへ逃げるのか、最初に突きつけられたからだ。

 一人では何もできない。

 だから、逃げることを諦めてその後考えることすらしなかった。

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