白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 青みがかった緑色の目は見た事もないほど思いつめた色を(たた)えていた。

 どこか不安げに揺れ惑う色は、けれどとても綺麗だ。ロゼリエッタは魅入られたようにその目を見つめる。


 自分の姿だけが映っていたらいいのに。

 自分だけが安息を与えてあげられたらいいのに。

 そんなことを、思った。


 ひどく長く感じる沈黙の後、シェイドはようやく口を開いた。

「クロード・グランハイムには隣国の王位継承権を得る資格があります」

 ロゼリエッタは目を(みは)った。

 それは、つまり。

「クロード様には隣国の王家の血が流れていると……?」

「その通りです。アーネスト第三王子殿下と、現グランハイム公爵の妹・マチルダの間に生まれた子供なのです」

 予想はしていたけれど、当たって欲しくはなかった答えに心臓を直接揺さぶられた。

 ほんの一瞬、息が詰まる。

 胸に手を押し当ててシェイドを見つめた。


 ロゼリエッタにそんな嘘をつく理由がない。だから彼の言ったことは真実に違いないのだろう。

「もっとも、第三王子の婚外子ですから継承順位はさほど高くはありません。それでも万が一のことを考え、余計な火種にならないように生まれてすぐにグランハイム公爵と養子縁組を完了させ、王位を放棄させています。ですから実際の権利としての資格はありません」

 初めて会った日に遊んだカードゲームがロゼリエッタの脳裏をよぎった。

 隣国の珍しいカードを持っていたのは、クロードの本当の父が隣国の王家と深く関わりのある人物だったからなのだ。

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