白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「とは言え王族にしては奔放なアーネスト殿下は民衆に人気があったようで、その死はたくさんの民に悼まれたと聞いています。正統な王位継承者であるマーガス殿下と、アーネスト殿下の唯一の子であるクロード・グランハイムが手を組むことを善しとしない勢力もまた、存在するのです」

 確かに王太子グスタフと第三王子アーネストによる協力関係ほどの脅威はなくとも、その子供同士に結託されることは第二王子フランツにとって面白くはないだろう。ましてや民衆に高い人気のあったというアーネストが早世しているのだからなおさらだ。

(でも、待って)

 ロゼリエッタの背筋を冷ややかなものが滑り落ちて行く。


 ただの思い過ごしや杞憂であって欲しい。

 半ば祈りながらシェイドに尋ねた。

「アーネスト殿下は、本当に事故で……?」

 それこそ部外者のロゼリエッタが軽々しく聞いていいことではない。

 だけど後から後から焦燥感が押し寄せ、無神経な質問はやめるように思い留まらせてはくれなかった。


 シェイドに向ける視線に縋るような思いがこもる。


 どうか否定して。

 どうか。


 どうか。

「状況は疑わしいですが、事故ではないと明確な証拠はあがっていません」

 顔色一つ変えずに告げるシェイドの言葉に目眩がした。


 では、クロードも事故に見せかけて殺されてしまうのではないのか。

 隣国で起きたクーデターはクロードの身を狙っていたのではないのか。


 考えていることが顔に出ているのだろう。シェイドはわずかに眉を寄せた。

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