白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「クロード・グランハイムは爆発事故に巻き込まれて行方が知れないと発表されています。ご心配には及びません」

「でも」

 ロゼリエッタは目の前にいる人物がクロードだと知っている。

 スタンレー公爵も気がついているのは明白だった。夜会でのやり取りを見て、やはり疑惑を抱いた人物もきっといるに違いない。

 そうしたらクロードが、シェイドが再び命を狙われない保証なんてどこにもないのだ。

「大丈夫です」

 安心させようとしてくれているのか。シェイドは小さく笑みを浮かべた。

「それは裏を返せば、クロード・グランハイムに生きていられると困る人物はフランツ殿下と通じている。その可能性が非常に高いということです」

 分かっている。

 クロードも実の父親であるアーネストの死の真相に疑いを持っているからこそ、名前も過去も自ら全て捨てたのだ。そうして隣国の人間としてマーガスに付き従えば、この国の貴族は彼に手出しなどまずできない。身の安全を図るには最善の方法なのだろう。


 ロゼリエッタにできることなんて何もない。

 クロードがどれだけ危険な状態に置かれ続けているのか。知ったところで何もできない。


 だったらどうして、いずれ切り捨てるだけの娘との婚約なんて望んだのか。

「シェイド様」

 二人の会話が聞こえないよう、離れた場所に控えるオードリーが躊躇(ためら)いがちにシェイドの名を呼んだ。シェイドが視線を向ければ、おくつろぎのところ大変失礼致します、そう言い置いて静かに近寄って来る。

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