白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「マーガス王太子殿下より封書が届けられております」

 その手には一通の封筒が握られていた。

 嫌な予感がする。

 息を潜めるロゼリエッタの前で、シェイドはペーパーナイフと共に封筒を受け取って中を改めた。オードリーは気遣わしげな目でシェイドではなくロゼリエッタを見つめ、一礼して持ち場へと戻って行く。


 心臓が早鐘を打つ。

 あの手紙には、ロゼリエッタにとって嬉しくないことが書かれている。そんな気がしてならなかった。


 それを裏づけるかのように無言で文字を追うシェイドの表情がみるみる色をなくして行く。

 一体、何が書かれているのだろう。今すぐにでもこの場を逃げ出したい気持ちを懸命に抑えつけながら、心臓を締めつけられる思いでシェイドの言葉を待った。


 シェイドは深く息をつき、目を閉じた。

 その光景に見覚えがある。

 忘れられるはずもなかった。


 あの時(・・・)、目を開けたクロードが告げた言葉は。

 ロゼリエッタはテーブルの下の両手を強く握りしめた。

 シェイドが目を開ける。


 ――そして。

「四日後、ダヴィッド様にここへ迎えに来て下さるよう使いを出します。そうしたらあなたは、ダヴィッド様と一緒に――隠し通路から王城へ逃げて下さい」

 一度ならず二度までも、守れないからと別れを選ばれてしまうのだ。

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