白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
33. 「人を好きになってはいけない」
人を好きになってはいけない。
クロード・グランハイムは誰に強いられたわけでもなく、幼い頃からずっとそう思っていた。
自分は誰かを好きになってはいけないのだと。
公爵家の三男であるクロードは、家を継ぐこともまずなかった。
このまま結婚せずとも、二人の兄たち同様に愛情を注いでくれている両親は悲しむだろうが無理を強いることもきっとない。
――だけど。
人を好きになってはいけない。
そう分かっていたのに。
一人の少女を好きになってしまった。

「ああ、ごめんねロゼ、騒がしかったかい?」
少し前にふとしたことから意気投合し、親しくなったレオニール・カルヴァネスの家へと初めて遊びに行った時のことだ。
彼が、ドアの影に入る小さな人影に向かって声をかけた。
三歳年下の妹がいるとは聞いている。だからその妹なのだろうとクロードも特に何を思うこともなかった。――なかった、はずだった。
「お兄様のお友達?」
レオニールに促され、少女がおずおずと近寄って来る。正確な名はロゼリエッタだと一度だけ聞いた覚えがあった。名前を聞いたのはその一度限りではあったが、可愛い妹だという自慢話はよく聞いている。けれど、それは仲の良い兄妹であれば珍しくもない話だ。
別にひねくれて容姿を貶める理由もない。確かに自慢したくなるほど可愛らしい少女だと思う。
綿毛のようにふわふわとした柔らかそうな長い髪。瑞々しい若葉のような緑色の大きな目。積もりたての雪のように真っ白く透き通った肌。華奢な身体は、指先で触れただけでも壊れてしまうのではないかと思った。
クロード・グランハイムは誰に強いられたわけでもなく、幼い頃からずっとそう思っていた。
自分は誰かを好きになってはいけないのだと。
公爵家の三男であるクロードは、家を継ぐこともまずなかった。
このまま結婚せずとも、二人の兄たち同様に愛情を注いでくれている両親は悲しむだろうが無理を強いることもきっとない。
――だけど。
人を好きになってはいけない。
そう分かっていたのに。
一人の少女を好きになってしまった。

「ああ、ごめんねロゼ、騒がしかったかい?」
少し前にふとしたことから意気投合し、親しくなったレオニール・カルヴァネスの家へと初めて遊びに行った時のことだ。
彼が、ドアの影に入る小さな人影に向かって声をかけた。
三歳年下の妹がいるとは聞いている。だからその妹なのだろうとクロードも特に何を思うこともなかった。――なかった、はずだった。
「お兄様のお友達?」
レオニールに促され、少女がおずおずと近寄って来る。正確な名はロゼリエッタだと一度だけ聞いた覚えがあった。名前を聞いたのはその一度限りではあったが、可愛い妹だという自慢話はよく聞いている。けれど、それは仲の良い兄妹であれば珍しくもない話だ。
別にひねくれて容姿を貶める理由もない。確かに自慢したくなるほど可愛らしい少女だと思う。
綿毛のようにふわふわとした柔らかそうな長い髪。瑞々しい若葉のような緑色の大きな目。積もりたての雪のように真っ白く透き通った肌。華奢な身体は、指先で触れただけでも壊れてしまうのではないかと思った。