白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「どうして、ですか。理由を……お聞かせいただけるでしょうか」

 無理やり絞り出した為に掠れ気味の声で問いかける。


 嫌われた原因なんて本当は知りたくもない。

 知ったからと言って改善できないことかもしれないし、改善できたとして愛される保証だってどこにもなかった。

 けれど、何が悪かったのか分からないまま済ませられる話でもない。


 クロードは肩で大きく息をつき、中空を見上げた。それから何かを断ち切るように目を閉じる。

 次に目を開けた時には、先程まではまだ少し残っていた迷いの色はどこにも見えなくなっていた。ただ静かに凪いだ視線をロゼリエッタに戻し、口を開く。

「隣国にレミリア王女殿下の直命を受けて赴くことになった。君も知っていると思うけれど、隣国は今、王位継承問題で大きく不安定に揺れている。だから万が一の事態が起きた時の為に婚約を解消したい」

 言われた言葉の意味が分からなかった。

 何一つとして納得できる理由がない。それともクロードの中では、これだけで婚約の解消に同意が得られる理由なのだろうか。


 胸が痛い。

 今すぐ泣き出したいのに聞き分けがいい婚約者を演じていたロゼリエッタが、この期に及んでもなお涙をせき止める。

 泣くのはせめて、理由を理解してからにしよう。

 感情的に泣き喚いては、彼が心を寄せる強く美しく聡い大人の女性に近づけない。これ以上嫌われたくなかった。

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