白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「茶葉に薬物が混入されていたと報告は上がっているの。息のかかった侍女を送り込むことはできないのだから、茶葉そのものに細工をするのは当然と言えば当然ね」

 ロゼリエッタはレミリアの言葉に引っかかりを覚えて首をわずかに傾げた。

「薬物? 毒物ではなかったのですか?」

 わざわざ"薬物"という表現を使ったことに意味があるのだろう。

 でも"毒物"ではなかったのなら、事態は大きく違って来る。

「調査の結果、睡眠薬とほぼ同じ効果をもたらす成分が抽出されたそうよ。もちろん、毒性はないとは言え国賓の口に入るものに異物が混入されていたことは、由々しき事態であることに変わりはないのだけれど」

「それでは何故、暗殺未遂の嫌疑が私にかけられたのでしょうか」

 マーガスは咄嗟の判断で供された紅茶を口にしなかった。だから大事には至らなかったとクロードが言っていた。

 ロゼリエッタの与り知らぬことではあるけれど、それで暗殺の計画が未遂に終わったのであれば理屈は分かる。

 でも実際は毒物すら使われてはいなかったという。


 だとしたら暗殺なんて言葉はどこから出て来たというのか。

「誰かが、起こりもしなかった暗殺を、さも事実であるかのように見せかけたかったのでしょう」

 レミリアは肩をすくませると紅茶を飲んだ。溜め息を吐き、ほっそりとした指を頤に押し当てる。


 ロゼリエッタの中で漠然とわだかまり続ける何かが形を取ろうとしていた。

 だけど散らばった点のいくつかが一つの線になった程度では、絵を描くには全然足りない。

 まだ真実をたくさん集める必要があった。

「そもそも薬物はいつ、茶葉に混ぜられたのでしょうか」

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