白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 自分にも関わる目的とは何だろう。

 西門での騒ぎが起こった後の出来事と言えばクロードと別行動を取って、先に帰ったことくらいしかない。だけどそんなことは、騒ぎを起こさずとも簡単に出来た。

「城内に侵入して、衛兵の甲冑を盗むこと。騒ぎを起こしておいて馬鹿馬鹿しい目的よね。でも……重くて嵩張る甲冑を盗み出すには必要なことだった」

「衛兵の、甲冑」

 ロゼリエッタの脳裏に、領地へ向かおうとしていた日の記憶が蘇る。

 マーガスの暗殺未遂の罪で、ロゼリエッタを捕らえようとした衛兵は仮面を被っていた。国王やレミリアの正式な命を受けているのなら顔を隠す必要などない。なのに隠していたということは、万が一にも顔を覚えられては困るということだ。

「では私の前に姿を見せた衛兵の方は一体?」

 話の腰を折ってしまうが、他に聞けるタイミングもないような気がして尋ねる。レミリアもそれは承知しているのか、簡単に答えてくれた。

「お金で雇われただけみたいね。それぞれの素性を調べてみたら前科者だったわ」

 衛兵の下卑た笑みが、つい先程向けられたものさながらの鮮明さで浮かぶ。

 あまりにも自然な悪意だった。

 だからロゼリエッタにはそれこそが彼の本性のように見えた。あの感覚は間違っていなかったようだ。

「捨て駒にすることが前提の彼は、依頼主が誰なのかなんてもちろん聞かされてない。余罪の追及の為に捕らえてはいるけれど、この件に関して情報を引き出すのはもう無理でしょうね」

「分かりました。お話を逸らして申し訳ありません。先を続けて下さい」

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