白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

38. 暗雲の正体

 ロゼリエッタが彼らの素性を知ったところで、何かが変わるわけではない。

 ただ、正規の衛兵ではないのなら、本当にマーガス暗殺の嫌疑をかけられてはいないことの証明に繋がるのではないか。

 今はそれだけで良かった。

「二つめ。これはあくまでも私たちの想像にすぎないことではあるけれど……多分、爆薬の威力を実際に試してみたかったのでしょうね」

「どうしてそのようなことを?」

「自国の武力抗争に使用する際の火力を調節したかったから、じゃないかしら」

「クロード様が巻き込まれて、行方知れずになったとされる事件の……?」

 兄からその事実を告げられた時と同じ痛みが胸を刺す。

 ほんの少し、声が震えるのを抑えられなかった。レミリアは痛ましげに眉根を寄せて頷く。

「王座を狙ってはいるけれど、王弟のフランツ殿下という方はとても小心者な方でね。本来であれば、とても武力による制圧を望むべくもないような方なの。何しろ、アーネスト第三王子殿下を事故と装って手にかけた時、捕まらない犯人に対して相当あった市民からの憤りの声にも怯えていたくらいなのだから」

 シェイドと似たような話をした。


 それでもフランツにとって王位とは魅力的なものだった。

 二番目に生まれたから。それだけの理由で手に入れられないもの。

 兄が病弱だったから。もしかしたら手に入るかもしれないもの。


 でも、手に入れられなかったもの。

「フランツ殿下が今になって実行に移しはじめたのは、口の上手い誰かさんに上手く唆されたのが大方の事実でしょうけど」

 その"口の上手い誰か"は、正統な継承権を持つマーガスが王位を得ることを脅かす存在だ。

 婚約者の輝かしい未来を共に勝ち取る為に戦えるレミリアの姿は、やっぱり羨ましかった。

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