白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「クロードのご両親については知っている?」

 自分が手に入れられないものを持つ彼女への憧憬に流れかけていた意識が、クロードの名を耳にして目の前の景色へと引き戻された。

 ロゼリエッタは弾かれるようにレミリアを見つめ、頷きと共に言葉を返す。

「アーネスト第三王子殿下と、グランハイム公爵の妹君マチルダ様のお子であることはクロード様ご本人から伺っています」

「では話をそのまま続けるわね。フランツ殿下がマーガス殿下と王位を争うに当たって、アーネスト殿下の忘れ形見クロードの存在は無視出来なかった」

「手を組まれては困る勢力もいると、クロード様はそう仰っていました」

「そうね。アーネスト殿下に実子がいたとなれば、民衆の関心を集めることは想像に難くないわ」

 少なくともクロードとマーガスが敵対する要素はない。

 そしてその利害関係は隣国の王位継承に際し、あまりに大きな影響を及ぼすと皆が分かっている。

 だからこそ、生まれてすぐにグランハイム公爵夫妻の子供として守られたのだ。

「でもクロードはグランハイム公爵が先に手を打って隣国との繋がりを断っていたし、私の護衛騎士にすることでさらに介入は困難なものになっていた。そこで目をつけたのが、全く異なる第三の存在なのでしょう」

 最後、レミリアは声に不快感を滲ませながら言い切った。

 けれども、さすがに王女の振る舞いとして相応しくないと判断したのか、ばつが悪そうな顔で一旦口を閉ざした。軽く咳払いをして気持ちを切り替え、あるがままの事実を伝えるべく姿勢を正す。

「それがいつ、どこでかはまだ分からないわ。ただフランツ殿下はクロードではなく、おあつらえ向きな地位にいたその人物に接触を図った。クロードの実の母君マチルダ様の婚約者だった、とある貴族にね」

「とある貴族……」

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