白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 当人のことなのにマーガスは出席しないと聞いている。

 まずは内々に処理してから改めて身柄を引き渡すということらしい。だから慣例として同席するべき証人や被告の家族、立ち合いの第三者もなく今日の裁判は行われる。

 もっとも、マーガスがクロードの罪を否定するのは目に見えており、形式的な茶番だ。


 レミリアを首を振り、ロゼリエッタとは逆に自分たちが入って来た扉に顔を向ける。

「もう一人来るはず――来たみたいね」

 扉が開き、レミリアの表情が強張った。ロゼリエッタも視線を向けて息を飲む。

「遅くなりまして申し訳ありません」

 最後の出席者、それはやはりスタンレー公爵だった。

 公爵は先にいる人々に会釈をし、ロゼリエッタの存在に気がつくと片眼鏡の奥の目をわずかに眇めた。

「おや、これはこれは――かような場所に、美しい花が二輪も」

 場に不似合いで、らしくもないおどけた声音で言いながらロゼリエッタたちの元へ近寄って来る。

 成り行きを見守るクロードの表情は険しい。立ち上がって挨拶をしようとするロゼリエッタを右手で制し、レミリアは公爵に微笑みかけた。

「お久し振りね、スタンレー公爵。今日のこの場は、公爵の内部告発がきっかけだと聞いているわ」

「内部告発とは些か大げさではありますが。此度の行動も偏に我が国を憂う気持ちがあればこそにて、恐れ入ります」

「ご苦労なことね」

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